オーバーハング、トラッキングエラーの調整

とあるベテランオーディオマニアの方とアナログの調整について話をしていた時に、??と思うことがあったので、掘り下げてみたいと思います。

今回は、トーンアームのオーバーハング調整についてです。

オーバーハング、トラッキングエラーとは?

まず、そもそもオーバーハング、トラッキングエラーとは何でしょうか。

1. 一般的なオフセットアームの場合

オフセットトーンアーム
レコードに信号を刻む場合、カッターヘッドで外周から内周に向かって平行移動で溝を刻んでいます。しかしレコードを再生する場合には、アームの支点を中心にカートリッジは円弧状にトレースしています。この針先とレコードの溝のズレをトラッキングエラーと呼びます。

オーバーハングは、トーンアームの支点からカートリッジの針先までの距離(Effective Length/実行長)から、アーム支点とセンタースピンドルの距離(Distance)を引いた値です。アームの支点、センタースピンドル、針先を一直線上に配置した場合に、スピンドルから針先がどれくらい出ているかということです。一般的には15mm程度と言われています。この値にすると、トラッキングエラーが最も少なくなると言われています。

個人的には、オーバーハングの値を参考にトラッキングエラーの調整をするのは困難だと思っていますので、この値は気にしません。

2. リニアトラッキングアームの場合

リニアトラッキングアーム
支点を中心に円弧上に動くトーンアームをオフセットアームと呼ぶのに対して、垂直に動くアームをリニアトラッキングアームと呼びます。
この場合は、トラッキングラーは当然起こりません。

トラッキングエラーが起こらないという事は、空間の定位や、レコード内周における歪感の減少など有利な点も多いのですが、支点が明確にならずに常に動きますので、力感が出にくく音が軽くなる傾向があります。また、動作が複雑ですのでシステムとして大袈裟になったり、故障トラブルが多い欠点もあります。

この辺は好みですが、僕はオフセットトーンアームの方が好きです。

また、アームが長くなれば、円弧運動の径が長くなる分、トラッキングエラーに対しては有利ですが、アーム自体の鳴きや、感度の低下という欠点があります。
僕は9inch/10inchアームが好きです。そもそも12inchアームを置けるような設置場所が有りませんが…。

イメージ的に分かりやすそうだったので、画像はこのサイトから引用しています。
引用元: http://www.hi-stands.eu/shop/data/mediablocks/Allignment%20protractor%20instructions.pdf
※引用元が無くなってしまいました。

3. 理想的なトラッキングエラーの調整とは?

本題です。

一般的には、内周部でエラーが出ないように調整します。
レコードは常に同じ速さで回転しています。外周部と同じ情報を内周部に刻もうとすると、内周部の方が複雑です。また、内周の方が円が小さくなりますので、トラッキングエラーの影響が出やすくなります。一般的なオーバーハングゲージだと、スピンドルから60mm程度を最内周部としています。

エラーカーブ
※これも引用元いっしょです。

曲線が2本ありますが、気にしないでください。
これは、アームが円弧に動くことに対して、盤の溝と針先間でどれ位のズレが有るかを図にしたものです。

カーブが0°/cmと交差するポイントが2つありますが、この時に盤の溝と針先のズレが0になっているという事です。

最内周の60mm前後を0にするのは当然なのですが、外周部のどの辺を0にするべきか、ここで意見が分かれます。

最外周部と、最内周部でゼロにすれば良いと思っている人が意外と多いような気がします。

上の図のように、スピンドルから12cm前後を0にするのが基本だと思います。有名どころだと、SMEのオーバーハングゲージもこの値です。
SMEオーバーハングゲージ
参考: SMEオーバーハングゲージ

最外周だと、おおよそ14cm程度だと思います。

なぜ、14cmではなくて12cmなのか?

これは単純な理由で、
まず、一番外側は、円が大きくなるためトラッキングエラーが出にくい。
次に12cmの方が、トラッキングエラーが最大になる中央部の誤差をより小さくできるからです。

また、SMEに代表されるオーバーハングゲージで、内周で角度を合わせれば、外周は多少ずれていても良いと思っている人が多いですが、基本的には内周、外周の2つのポイントは厳格に合わせた方が良いです。また、合わないという人もいますが、それはアームベースの取り付けがずれているなど、他の要因が考えられます。

最後に、面白い製品を紹介します。

SMEのゲージは調整ポイントがスピンドルから6cm、12cmとなっています。
この理由は、一般的なレコードの最内周部は6cm程度になっていて、ここのトラッキングエラーを0にして、全体の誤差を最小にしようとすると、外周部は12cmのポイントになった、という理屈だと思います。

実際には最内周が6cmという厳格な決まりはありません。特に音質上こだわったレコードは内周部まで一杯には刻まず、2枚組にしたりするケースもあります。
そこに着目して、最内周の定義をもっと外側にしてみたらどうか、という調整ゲージがこちらです。
アライメントゲージ-iec-オーディオファイル

アライメントゲージ IEC + オーディオファイル
参考: clear audio クリアオーディオ アライメントゲージ IEC + オーディオファイル

この着眼点は面白いと思いますが、実際には内周部ギリギリまで収録されている盤も結構あるので、それを無視できない場合は従来のゲージで調整した方が良いかなと思います。